要件を満たす血糖値 下げる
ふとりやすい人は、それだけ糖尿病発症の危険も大きいので、食事の注意が必要です。
実際に患者さんと接していても、明らかにストレスが血糖値に悪影響を与えていると思われるケースはめずらしくありません。
Kさんは主婦で、お姑さんと同居しています。
インスリン注射を1日4回自宅では器械を使って血糖値を自分で測定していますが、コントロールはなかなか思いどおりにいきません。
1日の血糖値の平均は、200mg/dlくらいという状態が続いていました。
あるとき、Kさんのお姑さんが病気になり、急に入院してしまいました。
数日間程度の入院でしたが、その間のKさんの血糖値は平均で低下していたのです。
お姑さんと同居していると糖尿病が悪くなる、ということが言いたいのではありません。
ただ、たまたまKさんの場合は、お姑さんの存在がストレスの原因となっていたようです。
もっと顕著な例があります。
私自身、彼女の例を経験するまでは、ストレスが血糖値を上げるといっても、せいぜい数mg/dl程度のものと考えていたのですが、認識を改めさせられました。
とある女性のデータがあります。
この女性で、インスリンを使っています。
だいたい血糖値が100 代で安定していましたが、9月の中旬になって急に400mg/dlなどというとんでもない数字が出てきています。
それがまた、100代に戻っています。
この間、何が起こっていたのでしょうか。
実は、この期間に大学院の入試を行なうお孫さんが上京して、同居していたのです。
この期間、インスリンの量を変えたというようなことはまったくありません。
しかし、お孫さんが神経質になっていてイライラして、おばあちゃんにかなり当たっていたらしいのです。
本人にうかがうと、やはり精神的にかなりまいっていたそうです。
それにしても、200mg/dlも上がってしまうという例ははじめてでした。
こういうこともありうるのです。
以前にも、奥さんや日一那さんが亡くなった、入院したというようなときに、急に上がる例がありました。
やはり伴侶の不幸は、血糖値を上げるのに十分な大きなストレスなのです。
そのとき血糖値は、愛していれば愛しているほど上がるわけです。
だから上がらなかった場合には、複雑な思いも感じるかもしれません 。
いずれにしても、個人差があるため、ストレスの大きさと血糖値の上昇を客観的なデータとして語ることは、なかなかむずかしいところです。
血糖値はなぜストレスで上昇するのか、精神的なストレスが体に良くないというのは、いまや定説になっています。
しかし、個人差はありますし、どの程度のストレスが悪いのかというような話になってくると、はっきりと数値で線を引くようなことはできません。
大きなストレスを感じても、一方で大きな幸福があれば相殺されてしまいます。
「気にする」ということが、人によって大きく異なるのも当然です。
仕事で失敗してもすぐに忘れてしまう楽天的な人もいれば、だれも気に止めないようなことをいつまでも考えてしまう人もいます。
このため「ストレスは体に悪く、成人病を引き起こす原因にもなる」という言われ方はしますが、心筋梗塞や糖尿病の直接的な原因として科学的に究明することはむずかしい面があります。
ただし、精神的ストレスが私たちの体に具体的にどのような影響を及ぼすかということについてはかなりわかっています。
強いストレスを感じると、胸がドキドキしたり、手足が冷たくなったりすることは、だれでも経験があると思います。
胃が痛くなったり、トイレに行きたくなるという人もいます。
血圧は上がり、精神的に興奮して、心拍数も呼吸数も上がります。
これは、体が非常事態に対していつでも対処できるように準備を整えている状態です。
危険が迫っていて走って逃げなければいけないような状況なのに、体がリラックスしていたり眠くなっていたりしてはいけないからです。
このようなストレス反応は、二つの経路から発生します。
自律神経の交感神経によるものと、CRF、ACTH、コルチゾールといったホルモン系によるものです。
こうした反応が過度に、あるいは長期にわたって起こると、体のさまざまな器官で悪影響が現れてくるわけです。
糖尿病でいえば、交感神経の活性化によって血糖値が上がります。
またストレス反応として、肝臓ではブドウ糖がたくさん造られ、血液中に送られていきます。
一方で血糖値を下げるはたらきをするインスリンの分泌がおさえられます。
さらに脂肪組織が分解されてインスリンのはたらきを妨げる遊離脂肪酸という物質がふえます。
ですから、食事療法や運動療法でせっかく血糖値をコントロールしていても、ストレスによって簡単にポーンと上がってしまうことも少なくありません。
むずかしいのは、血糖をコントロールするための食事や運動、あるいは禁酒といったことが、患者さんにとっては決して小さくないストレスになりうるということです。
実際、糖尿病の女性を対象にしたある報告では、食事治療そのものがストレスになる可能性を示しています。
糖尿病の治療における食事や運動のメニューは、客観的にみれば決して大きなガマンをしいるようなものではありません。
しかし個人の頭のなかでは、食べ物に関するちょっとした習慣さえ「生きがい」になっていることもあります。
そのことを知らずに医師が一律に禁止令を出せば、血糖値のコントロールがうまくいかない場合があるし、やがて挫折してしまう可能性も高くなります。
血糖値の程度や体の状態なども考え、患者さんごとに生活習慣の改善をどう決めるかが、糖尿病治療では重要になってきます。
糖尿病の実態調査が国民レベルで行なわれた、成人型糖尿病が日本人の中高年にふえていることは間違いありません。
いま日本の糖尿病患者は500万人とも600万人とも伝えられていますが、厚生省の発表ではそのうち病院に通って定期的に治療を受けている人は約3分の1にすぎません。
糖尿病という病気は、放っておいてもしばらくは生活にほとんど支障がないことが多いので、実際には最終的にあわれな人生の最後を迎えることになる病気でも、なかなか患者さんにはそのことが実感として得られません。
糖尿病の治療を行なっていて定期的に医師から話を聞いているはずの患者さんですら、食事や運動といった治療が長続きしないのですから、自分が糖尿病とは知りながら病院へも行かない人がこれだけ多くても不思議はないのかもしれません。
しかし、執行猶予がある病気ではあっても、糖尿病はひとりでに治っていく病気ではありません。
そんなことから厚生省は1997年、はじめて糖尿病の実態把握調査を行なうことにしました。
この調査は毎年行なわれている国民栄養調査とあわせて実施するもので、調査対象は国民栄養調査の対象者2万人のうち却歳以上の男女1万6000人。
血液検査の 項目に、約1ヵ月聞の平均血糖値を示すヘモグロビン を加えるものです。
これは、日本人の糖尿病の実態をある程度、把握する結果になるでしょう。
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